矯正治療のはなし

日本矯正歯科学会認定医 工藤 泰裕

乳歯の早期喪失

この症例のどこが悪いのでしょうか。正面の写真では悪いところは見当たりません。

 

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左右の写真です。

 

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歯列の発達過程は次の三つの段階を経ます。乳歯列期→混合歯列期→永久歯列期

 

本症例は混合歯列期と考えてください。本来、歯のない部分は乳歯が存在していなけれ

 

ばなりません。この状態は、乳歯が重度のむし歯などで保存できなかったものと推測さ

 

れます。歯・歯列はお互い咬みあい、隣り合っていなければなりません。

 

写真の様な状態が放置されると、今ある永久歯が伸びてきたり、傾斜したり歯列の崩壊

 

をまねきます。これから生えてくる永久歯の隙間不足になれば、不正咬合を誘発するこ

 

とでしょう。そこで、対策をします。

 

初診時の左右写真をよく見てください。

 

奥歯(第一大臼歯)に銀色の部品が見えますね。これは保隙装置(ほげきそうち)の一

 

部が見えている状態です。歯の裏側に1mmのワイヤーを添わせ、今見えている銀色の

 

部品と連結します。左右の臼歯は連結されているので移動する心配がなくなりました。

 

定期的に観察し永久歯の萌出(ほうしゅつ)を誘導します。

 

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本症例は来院のタイミング良かったので、予測される不正咬合を予防できまし

 

た。本格的な矯正治療をすることなく、後続する永久歯の誘導はきちんとおこなわれ、

 

審美的かつ機能的な状態を獲得できました。

 

矯正歯科学は人間の成長発育に介入することができます。

 

しかし根拠のない介入は暴力にもなります。治療は慎重に行わなければなりません。

 

今回は乳歯から永久歯にかわる過程で、乳歯の早期喪失の例を示しました。

 

本症例のように極端でなくても、むし歯で乳歯の歯冠(しかん)の幅が小さくなれば、

 

隣接する歯の移動があったり、これから生えてくる永久歯の萌出障害をおこす可能性が

 

あります。やはり日頃から、むし歯予防などの口腔管理が大切であることがわかりま

 

す。

 

工藤歯科・矯正歯科医院