矯正治療のはなし

日本矯正歯科学会認定医 工藤 泰裕

適切な年齢で適切な治療をすること

正治療で大切なことは、考え方に筋が通っているかどうか、ということです。

事の道理、事を行うときの正しい順序が重要視されます。

 

正治療を進める筋道は次の通りです。

 ①学術的知識

 ②症例の問題点の抽出(検査・診断)

 ③技術
 ④治療効果の判定

 

このことを丁寧に行うことで矯正治療は成り立ちます。近道はありません。

 

【初診】

 

反対咬合を例に考えてみましょう。

最も重要なことはその症例の原因にアプローチすることです。

歯の傾斜が原因で反対咬合になっているのであれば歯の傾斜を、

骨格が原因であれば骨格を修正するという具合です。

 

そんなの当たり前ではないか、と言う声が聞こえてきそうですが、

実は、まともに診断できる歯科医師はそれ程多くはありません。

 

男子 9才

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普通の歯科医師は矯正治療の経験がないので、頭部エックス線規格写真をトレースしたり、コンピューターの分析値を読み解く能力がありません。

したがって、見た目の感覚で判断することになります。

例えば、レントゲン写真を見て永久歯が込み合っているので顎が狭い、口を見て歯列に凸凹があるので顎が狭いなど、短絡的で誤った解釈をします。

 

本症例の検査資料を分析しました。

上顎前歯の傾斜角度が足りないこと、及び上下前歯に早期接触があり、これを避けるようにして下顎骨が前方に移動することで反対咬合になっていました。

 

【反対咬合の改善】

 

反対咬合は改善しました。

治療方針にしたがって観察に移行します。

 

 第一段階:反対咬合の改善

 観  察:永久歯の交換、顎の成長などの観察

 第二段階:全体の歯並びの治療

 保  定:配列後の観察

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観察期間中は、歯の生え変わり、顎の成長、むし歯などについてみていきます。

 

 【永久歯の萌出】

 

永久歯は生えそろいました。

この時点で検査して、もう一度診断を立てます。

 

12才

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診断の結果、非抜歯で歯並びの治療を開始します。

 

 【動的治療終了】

 

治療期間 16カ月

              (正面の写真なし)

 

 

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本症例の場合、第一段階では反対咬合の治療を、第二段階では個々の歯並びの治療を行いました。矯正治療は適切な年齢で適切な治療を施し、効率よく行われるべきです。

冒頭に挙げた4項目をないがしろにしては、治るものも治りません。

 ①学術的知識

 ②症例の問題点の抽出(検査・診断)

 ③技術
 ④治療効果の判定

 

一般歯科医が自分でも矯正治療をやってみたい思ったとき、③に興味を持ちます。

手っ取り早く簡単にできる方法を教えてくれという具合です。

 

セミナーや講習会がその要求に合わせると、①②が薄くなり③に重きを置くことになります。基礎がないままの実技はほころび易く、治らないなどのトラブルが起きるのも当然と言えば当然です。

 

また、あるセミナーの場合、症例の種類や程度に関係なく、使う装置は急速拡大装置と最初から決まってるといいます。つまり術者は考える過程①②を省き、③で決まった装置を入れれば、矯正治療が出来るというわけです。一応はレントゲンなどの資料は採るのですが、治療方法は最初から決まっているので、何のための診断かは不明ですが診断料はちゃんとあるようです。ともあれ、一般歯科医でもあっても、治る治らないはともかく、安直な矯正治療法があるようです。

 

④治療効果の判定は、治療前後の頭部エックス線規格写真をもとに重ね合わせ図を作成して行われます。重ね合わせ図からはいろんなものが見えてきます。例えば、どう治ったか、どう治らなかったか、歯は何ミリどの方向へ移動したか、その動きは意図した動きか、顔貌の変化は、作用は反作用は、顎は、成長は、等々。

自分の施した症例を振り返ることは、たいへん勉強になります。

 

正治療の目的は術者にとっては治すこと、患者にとっては治ることです。

筋を通して丁寧に行うのが、正しい矯正治療です。

この当たり前を達成するのに近道はありません。