反対咬合は放置しないこと
反対咬合症例の怖いところは、下顎骨が今後どれくらい成長するのかが、予測できないことでです。
ほとんどの症例は反対咬合の改善治療のあと、安定した経過をたどりますが、
一部の症例では、想定を超える力強い成長がじりじりと続く場合があります。
いずれにせよ、反対咬合症例の場合は、旺盛な成長をむかえる前に、上下顎の前後的関係を正しい状態にしておくことが必要です。
反対咬合症例は治療時期が大切です。矯正治療に明るい歯科医師に相談してください。
【初診】
9才 男性
検査資料を分析して診断をたてます。
治療は以下のように、二段階に分けて行います。
第一段階:反対咬合を治す治療
観 察:永久歯の生え変わり、成長の観察
第二段階:全体の歯並びを治す治療
保 定:治療後の観察
【反対咬合の改善】
あいにく、改善時の写真がありませんでした。
記録によると反対咬合の改善には2ヶ月を要しました。
その後は定期的に観察します。
【永久歯の萌出】
13才
永久歯の生え変わりは順調に進み、下顎骨の成長は安定しました。
この段階でもう一度検査をします。
診断の結果、非抜歯でマルチブラケット治療を行います。
【治療後】
治療期間 18カ月
反対咬合は治療の開始時期が重要です。
乳歯列の低年齢で治療することはありませんが、遅すぎるのはいけません。
小学生になったら、矯正歯科医の観察下におき、治療のタイミングをみてもらうのが理想的です。一方で、誰しもが来院時期が理想的であるとは限りませんが、気が付いた時点で受診したほうが良いでしょう。
私は遅いのはいけないと言いましたが、矯正治療上その時々で出来ることと出来ないことがあるからです。しかしながら、改善に向けての方法は他にもあります。一緒に考えていきましょう。
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矯正の価値は装置ではない、結果です。
これから矯正治療をはじめようと考えている人が、装置に関心をもつことはわかります。目立たないとか、取り外しだとか、魅力的な言葉に惹かれるのが人情です。
その心理をうまく利用して経営戦略する歯科医院があるので、仕方のないことではあります。
しかし重要なのは、何を使うかよりどう治るか、ちゃんと治るかではないでしょうか。ご自分の症状が、どう治るのかがイメージできるような情報こそ大切です。
また、治療に要する期間が曖昧では困ります。しっかり確認して下さい。
私の施術は以下のとおりです(永久歯列期の本格矯正の場合)。
矯正装置はマルチブラケット装置です。
審美ブラケットを表側に付けるワイヤー矯正と言った方がわかりやすいでしょうか。
治療期間は抜歯・非抜歯にかかわらず18ヶ月から24ヶ月(ごく稀に超えることあり)。
ひと月に一度の受診(治療内容によって二度のことあり)
治療例は様々なケースに対応できるようにブログに多数掲載しています。
ブログは矯正治療の技術解説書ではないので、専門的なテクニックの説明はありません。例えばブラケットポジション、ワイヤーの曲げ方、どの段階でどのワイヤーを入れるか、細かな注意点、コツ、さじ加減を記述することはブログの趣旨ではありません。
したがって、掲載の写真は途中経過を省いて、術前と術後の写真のみです。
【初診時】
17才 男性
検査資料を分析して診断をたてます。
上顎の抜歯、下顎非抜歯でマルチブラケット治療を始めます
【治療後】
治療期間 19ヶ月
装置を外して、保定に移行します。
撮影の都合上、保定装置は外していますが、普段はリテーナーを付けています。
歯列の凸凹は解消され、初診時の面影はありません。
下顎は非抜歯にもかかわらず、うまく配列できました。
私には、約束した治療期間で治す責任があります。そのため、治療は効率よく確実である必要があります。治るのか治らないのかわからないような装置では困るのです。
ちまたには、いろいろな矯正装置がありますが、重要なのは治ることです。キラキラしたホームページに惑わされることなく、治るに足る装置の選択するべきです。
成人 上下顎前突症例
重ね合わせ図は治療効果を検証するうえで、重要な情報を提供してくれます。
例えば、どう治ったか、どう治らなかったか、作用は反作用は、など目で見て分かります。術者の治療技術を如実に反映する鏡とも言えます。
上の重ね合わせ図は今回の症例です。説明はあとでします。
口の中を診てみましょう。
【初診】
30才代 女性
先ず口を閉じた状態。上下の歯列が咬み合ったときの関係「咬み合わせ」を確認します。次に口を開けた状態。歯列の凸凹の量「歯並び」を確認します。
次に、咬み合った状態のときの横顔を覗き込みます。顎顔面全体のバランスを観察します。
通法に従い、検査資料を分析します。
本症例は、小臼歯の抜歯が必要となりました。
【治療後】
動的治療期間 16カ月
装置を外した時の写真です。保定装置に置き換えて保定に移行します。
みなさんが使用する装置に関心があることは十分理解できます。
ただ、何を使うかより、どう治るかを考えてみて下さい。
私の使用する装置はマルチブラケット装置です。歯の表側に付けるタイプでワイヤー(針金)を使い、こう治します。
【治療効果の判定】
矯正治療がまぐれで治ったのでは困ります。また治療成績の精度を上げるには、なぜ成功したか、あるいはなぜ失敗したかを知る必要があります。それを知る方法が重ね合わせ図です。製作には時間がかかりますが、治療技術の確認ができ、たいへん勉強になります。
初診 治療後
実線:初診 点線:治療後
1、上顎前歯:6.0㎜ 後退 と 3.0㎜ 圧下(※1)
2、上 唇:2.0~4.0㎜ 後退
3、下顎前歯:5.0㎜ 後退
4、下 唇:5.0㎜ 後退
5、下顎骨 : 1.0㎜ 前方 と 2.0㎜ 下顔面高の短縮
6、オトガイ部軟組織の緊張緩和
治療効果のまとめ。
上下顎の前歯が後方移動した。これに連動して口唇がさがり口元の突出感が減少し、口唇閉鎖が容易になった。オトガイ部皮膚の緊張が無くなり、自然な丸みを帯びた。また、下顎骨を反時計回りに回転させる事が出来た。これにより下顔面高が減少し、側貌の改善に貢献した。
以上のメカニズムで本症例は改善しました。
矯正治療は専門性が高く、高度な技術が要求されます。
広告に騙されることなく、きちんとした矯正治療を受けるようにして下さい。
※1 歯の移動方向を表す用語
圧下(あっか) :根尖方向、歯を埋める方向のこと
適切な年齢で適切な治療をすること
矯正治療で大切なことは、考え方に筋が通っているかどうか、ということです。
事の道理、事を行うときの正しい順序が重要視されます。
矯正治療を進める筋道は次の通りです。
①学術的知識
②症例の問題点の抽出(検査・診断)
③技術
④治療効果の判定
このことを丁寧に行うことで矯正治療は成り立ちます。近道はありません。
【初診】
反対咬合を例に考えてみましょう。
最も重要なことはその症例の原因にアプローチすることです。
歯の傾斜が原因で反対咬合になっているのであれば歯の傾斜を、
骨格が原因であれば骨格を修正するという具合です。
そんなの当たり前ではないか、と言う声が聞こえてきそうですが、
実は、まともに診断できる歯科医師はそれ程多くはありません。
男子 9才
普通の歯科医師は矯正治療の経験がないので、頭部エックス線規格写真をトレースしたり、コンピューターの分析値を読み解く能力がありません。
したがって、見た目の感覚で判断することになります。
例えば、レントゲン写真を見て永久歯が込み合っているので顎が狭い、口を見て歯列に凸凹があるので顎が狭いなど、短絡的で誤った解釈をします。
本症例の検査資料を分析しました。
上顎前歯の傾斜角度が足りないこと、及び上下前歯に早期接触があり、これを避けるようにして下顎骨が前方に移動することで反対咬合になっていました。
【反対咬合の改善】
反対咬合は改善しました。
治療方針にしたがって観察に移行します。
第一段階:反対咬合の改善
観 察:永久歯の交換、顎の成長などの観察
第二段階:全体の歯並びの治療
保 定:配列後の観察
観察期間中は、歯の生え変わり、顎の成長、むし歯などについてみていきます。
【永久歯の萌出】
永久歯は生えそろいました。
この時点で検査して、もう一度診断を立てます。
12才
診断の結果、非抜歯で歯並びの治療を開始します。
【動的治療終了】
治療期間 16カ月
(正面の写真なし)
本症例の場合、第一段階では反対咬合の治療を、第二段階では個々の歯並びの治療を行いました。矯正治療は適切な年齢で適切な治療を施し、効率よく行われるべきです。
冒頭に挙げた4項目をないがしろにしては、治るものも治りません。
①学術的知識
②症例の問題点の抽出(検査・診断)
③技術
④治療効果の判定
一般歯科医が自分でも矯正治療をやってみたい思ったとき、③に興味を持ちます。
手っ取り早く簡単にできる方法を教えてくれという具合です。
セミナーや講習会がその要求に合わせると、①②が薄くなり③に重きを置くことになります。基礎がないままの実技はほころび易く、治らないなどのトラブルが起きるのも当然と言えば当然です。
また、あるセミナーの場合、症例の種類や程度に関係なく、使う装置は急速拡大装置と最初から決まってるといいます。つまり術者は考える過程①②を省き、③で決まった装置を入れれば、矯正治療が出来るというわけです。一応はレントゲンなどの資料は採るのですが、治療方法は最初から決まっているので、何のための診断かは不明ですが診断料はちゃんとあるようです。ともあれ、一般歯科医でもあっても、治る治らないはともかく、安直な矯正治療法があるようです。
④治療効果の判定は、治療前後の頭部エックス線規格写真をもとに重ね合わせ図を作成して行われます。重ね合わせ図からはいろんなものが見えてきます。例えば、どう治ったか、どう治らなかったか、歯は何ミリどの方向へ移動したか、その動きは意図した動きか、顔貌の変化は、作用は反作用は、顎は、成長は、等々。
自分の施した症例を振り返ることは、たいへん勉強になります。
矯正治療の目的は術者にとっては治すこと、患者にとっては治ることです。
筋を通して丁寧に行うのが、正しい矯正治療です。
この当たり前を達成するのに近道はありません。
埋伏歯 ④
シリーズ4回目。
埋伏歯を歯列に誘導するのも、矯正歯科の仕事です。
(まいふくし)
【初診】
中学生 女性
前歯がありません。
骨の中に埋まったままで、生えてこれない状態です。
このままでは、日常生活にいろいろ支障をきたします。
埋伏歯の誘導であっても、普通の矯正治療と同じように検査資料を採り、きちんと分析します。症例によっては、CT断層撮影が必要となることもあります。
【途中経過】
局所麻酔下で電気メスを使って歯肉の処置、必要に応じ骨を除去します。
埋伏歯に金具を接着して牽引の足掛かりとし、弱い力で少しずつ引っ張ります。
ここまで来れば、いつもの矯正治療です。
本症例の全体像は、八重歯を有する歯列の凸凹症例です。
通法に従い矯正治療を進めます。
【治療後】
埋伏歯を歯列に誘導する際には、いくつか考慮すべき点があります。
埋伏歯の位置
〃 方向
〃 形
〃 骨癒着 など。
条件によって、牽引・誘導の不可能な場合は抜歯の対象となります。
埋伏歯は個々の症例によって状態が異なります。
誘導か抜歯かの判断が難しいこともあるので、慎重な診断が必要です。
気になる方は最寄りの矯正歯科医院にご相談下さい。
口元を引っ込めたい
矯正治療をする動機は、人によって様々です。
八重歯を治したい。出っ歯だ。凸凹が気になる等いろいろです。
人によっては口元を引っ込めたいといった要望もあります。
【初診時】
17才 女性
それ程、歯列の凸凹はありません。
頭部エックス線規格写真など、総合的に判断すると上下顎前突症例です。
セファロ分析では、下顎前歯が平均値に比べて前方6㎜に位置していました。上顎前歯を含めて全体として口元の突出感があります。
抜歯分析は抜歯判定です。
【治療後】
動的治療期間 23ヶ月
歯を抜いたスペースを利用して、上下顎前歯を後退しました。
【重ね合わせ図】
頭部エックス線規格写真
初診 治療後
実線:初診 点線:治療後
初診と治療後の頭部エックス線規格写真を比較します。
重ね合わせ図を製作することで、歯や顎の移動の様子が見てとれます。
下顎前歯は後退し平均値の位置にのりました。上顎前歯もそれに追従して後退させた結果、唇もさがりました。
初診時のオトガイ部(下顎の先)の皮膚は緊張し薄く張り詰めていましたが、丸みを帯び自然な感じになり、結果として横顔がきれいになりました。
この様に重ね合わせ図は治療効果を判定するうえで、多くの情報を提供してくれます。
一方で、重ね合わせ図から治療上の反省点も見えてきます。
私自身、あの時はこうした方が良かった、この歯はこう動いてほしかった、など気づくことがあります。自分の施した治療を検証することは、たいへん勉強になり次の治療に生かすことができます。
矯正治療の目指すところは、
きれいな歯並び、機能的な咬合、均整な横顔、ピカピカの自分の歯です。
矯正治療はいいですよ。
乳歯列期の反対咬合が観察でよい理由
「乳歯列期の反対咬合が観察でよい理由」、
最初に結論を述べます。
それは「後でも治るから」です。
実際の症例で検証してみましょう。
【乳歯列期】
本症例は、乳歯列後期または混合歯列前期と言った方が正確かもしれません。
6才 女子
矯正相談のため来院、この時すでに反対咬合の程度はつよいですが、下顎の永久前歯が2本生えたばかりで、6才臼歯はまだ生えていません。
当面、定期的に観察することにしました。
6才の時の口腔内写真。
反対咬合です。
上顎は全て乳歯
下顎は永久前歯が2本生えた。
半年ごとに観察していきます。
【混合歯列期】
8才。
6才臼歯が生えそろいました。
治療をはじめるにあたり、頭部X線規格写真などの資料を採ります。
検査資料を分析、診断、治療方針をたてます。
第一段階:顎の成長のコントロールによる反対咬合の改善
観 察:永久歯交換の誘導
第二段階:機能的咬合の確立
保 定:配列後の観察
【反対咬合の改善】
私は反対咬合の改善するとき、いつも3カ月以内の改善を目標にしていますが、
本症例では約12カ月を要しました。ともあれ、第一段階の目的は達成されました。
観察に移行します。
【観 察】
永久歯の生え変わり、全身と顎の成長状態、むし歯の有無など定期的に観察します。
【永久歯列】
17才
永久歯の大きさは適度なもので、歯列に凸凹は生じませんでした。
また、成長期を経ても、上顎骨と下顎骨は良好な関係が維持され、今後、反対咬合になる心配はないようです。したがって、第二段階治療の必要性はなさそうです。
本症例は6才の時に反対咬合のため来院しました。しかし、すぐ治療せず、6才臼歯が生えるまで観察しました。その後、タイミングをみて治療、改善しています。
従って、それより小さな年齢の乳歯列期で治療をはじめる意味を見出せません。
冒頭、「乳歯列期の反対咬合が観察でよい理由」は「後でも治るから」と言ったのは、この様な理由によります。
一方で、観察にすると歯科医院は、お金になりません。なんとか装置を入れようとする歯科医師がいても不思議ではありません。例えば、はやい方がいい、顎が狭い、今すぐ治さなければ大変なことになるなど、親の責任論を説き治療に誘導されたらどうでしょうか。
低年齢の矯正治療を急がせるような口調に騙されないようにしましょう。
【注 意】
本症例をまねて、8才になってからの受診でいいとは思わないで下さい。また、後でも治ると言っても限度があります。ある時期を過ぎると、急に治療が困難になります。
小学生になったら、矯正治療に明るい先生に相談することを勧めます。
医院選びの目安は、〇〇歯科医院より、〇〇矯正歯科医院の方が良いでしょう。