矯正治療のはなし

日本矯正歯科学会認定医 工藤 泰裕

歯の凸凹は予防できるのか

将来の永久歯の凸凹を予測して、あらかじめ予防出来るものだろうか。

 

ちまたでは、6才臼歯がやっと生えた程度の低年齢児に対し、拡大装置の使用で

 

永久歯の凸凹を回避しようとする治療方法があるようです。

 

わたしはの答えはこうです。「必要のない矯正治療をする必要はない」

 

理由は

 

・そもそも、現在症状がない。

・将来、不正咬合になるとも限らない。

・治療効果が約束できない。

・治療期間が長くなり、効率が悪い。

・症状が出た時点での治療で、間に合う。

・そのほうが効率的。

・つまり、低年齢児の積極的な治療は不要。


レントゲン画像上で後続の永久歯が混みあっている状態を「顎が狭い」とし、

 

治療を勧める場合があるかもしれません。そこでレントゲンでの歯の見え方を説明し

 

ます。まず下顎と上顎では見え方が違います。下顎は先行する乳歯の真下に、後続の永

 

久歯があります。上顎では後続の永久歯が「ぶどうの房」のように混み合って見えま

 

す。これは上顎骨は鼻の骨と接しており、複雑な形をしているため後続永久歯が寄り添

 

うように待機しているからです。けして、顎が狭いから混み合っているのではなく、

 

上顎骨の構造的な理由で、混み合っている様に見えるだけです。

 

この事を覚えておいて下さい。

 

初診時年齢  10歳  男子

 

【初診時口腔内写真】

 

検査・診断をします。

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本症例の初診時の状態です。この時点で治療出来ることは、それ程ありません。

 

あるとすれば、待つことです。一枚目の写真を見てください。

 

犬歯部相当部の歯肉が盛り上がっています。八重歯の前兆ですが生えるのを待ちます。

 

今、出来ることがあるとすれば、前歯の一部に過度な接触があるので、この機能的障害

 

を除去することくらいです。次の写真の丸印のところです。

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【マルチブラケット治療前】

 

全ての永久歯が生えるのを待って、マルチブラケット治療をはじめます。

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【マルチブラケット治療終了時】

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歯列の凸凹は解消され美しくて、機能的な歯並び・咬み合わせになりました。

 

冒頭の、将来の永久歯の凸凹を予測して、あらかじめ予防出来るのか。

 

この点に関してもう少し説明します。そしてここから、「予測」と「予防」を分けて考

 

えます。結論から言って予測は出来ません。レントゲン画像の見え方について説明しま

 

した。画像からは将来の凸凹の量は予測できません。予防はある程度出来ます。

 

ただし、条件が必要です。下顎の4本の永久歯が生え変わりを待ちます。

 

この4本の重なりをみます。重なりが少なければ、乳歯を保隙して永久歯の凸凹を回避

 

できる可能性があります。(保隙:ほげき、隙間を確保する意味)

 

正治療で大切なのは、適切な時期に適切な治療を施すことです。

 

低年齢児の積極的な治療は必要ありません。

 

「必要のない矯正治療をする必要はない」

 

ということです。

 

 

工藤歯科・矯正歯科医院