矯正治療のはなし

日本矯正歯科学会認定医 工藤 泰裕

簡単な症例などない

たいていの歯科医師は、ワイヤーの曲げ方や装置のことを知りたがります。しかしながら、不正咬合を治すのは針金でもなく装置でもありません。正しい診断が不正咬合を治します。例えばヒトの発生や成長といった基礎的な知識を習得することは診断の精度を上げ、結果的に治療を成功に導きます。

 

成長期の症例を扱う場合は、ヒトの成長発育に介入することになります。

不正咬合を治すというより、人間を治すといった方が表現がより適切です。子どもの身体は日々大きくなります。その過程は一様ではなく、緩やかに徐々に大きくなる時期と急に加速がつく時期があります。患者さんが成長過程のどの段階にあるか知ることは矯正治療をするうえで不可欠です。成長の段階を知るには成長分析を行いますが、詳しく割愛します。

 

【本症例の経過】

女子

 

①6才   矯正相談 観察へ移行

②7~9才 観察

③10才    第一段階:反対咬合の治療   ※写真1

④11才    観察             ※写真2

⑤12才    観察   身長150㎝

⑥13才    観察   身長152㎝

⑦14~16才 観察

⑧17才    第二段階:マルチブラケット治療※写真3

⑨18才    保定             ※写真4

 

本症例は矯正相談のあと治療せず観察に移行しました(①②)。

 

注意:骨格性反対咬合の場合は、すぐに治療を始めます。

   自己判断しないで受診して下さい。

 

【写真1 第一段階】

 

10才の時の口腔内写真。前歯がそろいました。

                                       

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改善時の写真はありませんが、反対咬合は改善されました。

 

【写真2 観察】

 

11才の時の口腔内写真。隙間はありますが咬み合わせに問題はありません。

さらに観察を続けます。

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【写真3 第二段階】

 

17才の時の口腔内写真。前歯が再び反対咬合になってきました。第二段階の治療を開始します。

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【写真4 保定】 

 

マルチブラケット治療を終了し保定に移行します。

 

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第二段階の治療を始める時期は、不正咬合の種類や性別で人それぞれ違います。これは難しい判断ですので矯正歯科認定医の知見に頼ることになります。

本症例の場合、女子としては遅い時期ですが学校や仕事など、実生活の背景もまた治療時期を決める要因です。

 

本症例は初診時に反対咬合でしたが、骨格性反対咬合の要素がなかったので、しばらく観察しました。もし骨格性要素があったならばすぐに治療を始めたことでしょう。

矯正歯科の世界に簡単な症例などめったにありませんが、難しい症例なら山ほどあります。友達が言っていた、何かに書いてあったなど、自分で判断しないようにして下さい。矯正治療をするしないにかかわらず、矯正相談を受けることを勧めます。

 

 

工藤歯科・矯正歯科医院