矯正治療のはなし

日本矯正歯科学会認定医 工藤 泰裕

みにくいアヒルの子

みにくいアヒルの子の時期。アグリーダックリングステージ(Ugly  duckling  stage)

 

永久歯の前歯が生える時期のことで、一時的に正中離開が生じて、みにくいけれどその

 

後に側切歯、犬歯が生えることで隙間は閉鎖され美しくなる。

 

このことを、童話「みにくいアヒルの子」に例えて呼んでいます。

 

つまり、

 

①生え始めの前歯に隙間があっても慌てなくていい。

 

②自然に治ることもある。

 

ということです。ここまでは自然治癒もあり得るとしたイイお話し。しかしなが

 

ら、なかには

 

③自然には治らないこともある。

 

今回は③のケースについて取り上げます。

 

 

【初診時口腔内写真】

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下顎の前歯が生えそろい上顎の前歯が生えてきます。通常、逆V字状に生えてきます。

 

この時、

 

ア、単に、逆V字状なのか。

 

イ、ねじれて、逆V字状なのか。

 

がポイントです。模型で説明します。

 

【アの場合】

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隣の歯が生えてくるに従い、

 

押されて隙間は閉鎖する。 

 

 

【イの場合】

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ねじれているため、隣の歯と接していない。 

 

隣の歯が生えても閉鎖しない。

 

もう一度、初めの口腔内写真に戻り、本症例がどちらのタイプか確認してください。

 

 

このタイプは、自然には治らないので矯正治療をしました。

 

次に示す写真は、矯正装置を外した時のものです。

 

【上顎の前歯配列終了】

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ブログで紹介している症例は全て、わたしが治療しています。

 

このブログの目的のひとつに、正しい矯正歯科の知識の普及があります。

 

というのも、いろんな歯科医院がいろんな事をしているのも事実だからです。

 

ここで、誤った例を再現してみましょう。

 

今回の症例に対し、ある先生から次の様に言われたらどうしますか。

 

「上ノ歯ガ 凸凹ナノハ 顎ガ狭いカラ レントゲン画像デモ 上ノ顎ガ 狭ソウデ

 

ス」「床矯正装置 カ 拡大装置 ヲ 入レマショウ」「今スグ ヤリマショウ」

 

なるほど、そう言われれば、親としては心配になってきますよね。

 

では、どこが間違いなのか。第一に顎が狭いという根拠がレントゲン画像である点で

 

す。顎が狭いを証明するには、歯型を採り石膏模型上で「骨の部分」と「歯列の部分」

 

の幅と長さ(深さ)を計測する必要があります。さらに「上顎骨」か「歯列」かを

 

明確にして、標準値と比較検討して初めて、それが分かります。顎の広い狭いは、画像

 

からは分かりません。

 

第二に、診断が不明な段階で具体的な装置名をあげている点です。

 

一般歯科の先生が講習会などで、矯正装置の作り方を教わると使ってみたくなる心理が

 

働くようです。「診断なくして、治療方針立たず」。不正咬合を治すのは装置ではな

 

く、診断です。矯正歯科認定医は診断を最も重視します。

 

第三に、治療を急がせている点です。患者さんに不安をあおったり、治療へ誘導するよ

 

うな言動は歯科医師として、やってはいけません。

 

さて、前回の「八重歯は可愛いか」の内容とも関連がありますが、生え変わり時期のレ

 

ントゲン画像の見え方を説明します。

 

先行する乳歯 C・D・E と後続の永久歯 3・4・5 の関係は下顎と上顎では見え方

 

が違います。下顎は乳歯の真下に永久歯が存在します。上顎では後続永久歯は少しズレ

 

て位置し、「ぶどうの房」のように見えます。

 

【マーク入り】

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【マークなし】

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上顎骨は鼻の骨と隣接し、構造が複雑なため、後続永久歯の居場所は限られています。

 

画像の様に「ぶどうの房」状に位置するのが普通です。顎が狭いから、混み合っている

 

のではありません。構造上、そう見えるだけです。

 

いろんな歯科医院があります。

 

「上ノ歯ガ 凸凹ナノハ 顎ガ狭いカラ レントゲン画像デモ 上ノ顎ガ 狭ソウデ

 

ス」「床矯正装置 カ 拡大装置 ヲ 入レマショウ」「今スグ ヤリマショウ」

 

と言われた時は、今日の話を思い出してください。

 

 

 

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