矯正治療のはなし

日本矯正歯科学会認定医 工藤 泰裕

下顎は拡大してはいけない

次の2枚の写真は同じ症例です。

混合歯列期と永久歯列期に撮影したものです。

(混合歯列:乳歯と永久歯の混合)

 

前歯の凸凹がどうなったか見比べて下さい。 

 

7才                    12才

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前歯の凸凹の程度が少なくなりました。 

さて、ここで問題です。

私は何をしたでしょうか。答えは後ほど。

 

症例の全体像を見てみましょう。


【初診時】

 

7才 男子

検査資料を分析して診断をたてます。

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前歯に不良な接触があり、下顎の一本の歯が動揺していました。その歯の歯肉は退縮しています。

 

第一段階の目的は、この機能的障害を除去することです。

 

【機能的障害の除去】

 

上顎前歯の位置を修正して、下顎の歯との接触を柔らかくしました。

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この後は、定期的に観察します。

 

【永久歯列期】

 

12才、

永久歯が生えそろいました。

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冒頭に、前歯の凸凹の程度がなぜ少なくなったか、私は何をしたでしょうか。

問題を出しました。

 

もう一度、2枚の写真を並べます。

 

7才                   12才

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答え、「私は何もしていない」が正解です。

 

顎は成長で大きくなり、自然に下顎の前歯はここまで並びます。

 

拡大装置を入れている子どもがいますが、いかに無意味かわかりましたか。

むしろ拡大装置は正常な成長を阻害するなどの悪影響があります。

必要のない矯正治療は、子どもにいらぬ苦痛を与え、時間とお金が無駄になるだけです。下顎に拡大装置を入れる必要はありません。

 

この段階でもう一度、検査・診断をします。

第一段階では前歯の機能的障害の除去を(数か月)、

第二段階では全体の治療を行います(16~24ヶ月)。

正治療は効率的に行わなければなりません。

ダラダラと何年にもわたり装置が入っているようでは、まるでダメ。

 

【治療後】

 

計画的に治療をしてきちんと治します。

抜歯・非抜歯は好みや気分で決めるものではありません。抜歯分析をして学術的な精確性をもって判定します。

 

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私には、初診の段階で将来の治療結果が見えています。

だから、どの段階で何をすべきか、何をしてはいけなのかの判断が出来ます。

問題の答えは、「何もしていない」でした。

何もしないのも治療上の戦略です。

 

正治療の本質をわかっていないと、無駄な治療、誤った治療が行われます。

正治療をする歯科医師にもいろいろいますので、

質の良い矯正治療を受けたい場合は、日本矯正歯科学会の認定医が常勤しているかどうか、確認する必要があるでしょう。