矯正治療のはなし

日本矯正歯科学会認定医 工藤 泰裕

歯並び

成人 上下顎前突症例

重ね合わせ図は治療効果を検証するうえで、重要な情報を提供してくれます。 例えば、どう治ったか、どう治らなかったか、作用は反作用は、など目で見て分かります。術者の治療技術を如実に反映する鏡とも言えます。 上の重ね合わせ図は今回の症例です。説明…

適切な年齢で適切な治療をすること

矯正治療で大切なことは、考え方に筋が通っているかどうか、ということです。 事の道理、事を行うときの正しい順序が重要視されます。 矯正治療を進める筋道は次の通りです。 ①学術的知識 ②症例の問題点の抽出(検査・診断) ③技術 ④治療効果の判定 このこと…

装置と歯並び

私が矯正治療について考えるときは、歯と顎を分けて考えます。 例えば、成人で歯列に凸凹がある症例といっても、以下に示すように上下顎の関係性は様々です。 ①上下顎の前後関係が上顎前突傾向のもの ②上下顎の前後関係が反対咬合傾向のもの ③上下顎の前後関…

抜くか抜かないかの話

歯を抜く矯正治療、歯を抜かない矯正治療。 そもそも抜く抜かないはどのようにして決めるのか、説明します。 診断には精確な検査資料が必要です。 例えば、頭部エックス線規格写真(横顔のレントゲン)の撮影時に0. 数ミリでも咬み合わせにずれがあっては、…

矯正治療という名の誤解

成人女性、歯並びを気にして来院されました。 【初診時】 矯正治療の技術を持たない場合、向かって左上の二番目の前歯を抜いて(本人の右)、その両隣の歯を細く削り、連続した差し歯、いわゆるブリッジを入れる方法をとるかもしれません。色・形を統一する…

埋伏歯 ③

最初にレントゲン写真を示します。 パッと見てどこに違和感を感じますか。 そうです。向かって左上の犬歯が引っかかって生えてこれない状態ですね。 (本人の右上) 次に、同じレントゲン写真に番号を付けました。 もう一度質問します。どこに違和感を感じま…

歯科医師選び

歯科医師にもいろんな先生がいます。 私のように矯正治療が得意な人もいれば、そうでない先生もいます。 従って、同じ症例であっても、担当医の考え方ひとつで治療方法が異なることがあります。このことは歯並び・咬み合わせの相談をどこでするかによって、…

信仰か、治療か

適切な時期に、適切な治療を施すのが矯正歯科のセオリーです。 しかしながら、極端な早期治療や間違った治療が行われているのも事実です。 親として知っておいた方が良いことがあります。 【症例1】 【症例2】 写真は、歯列の凸凹を気にして、矯正相談のた…

大人の矯正治療

ここ最近、当医院では40才以上の女性の矯正相談が増えています。 子育てが少し落ち着いた。 今まで気になってはいたけれど、矯正治療の機会がなかった。 理由は人それぞれでしょうが、ようやく矯正歯科医院にたどり着きました。 矯正相談では現在の状態、治…

安易な歯列拡大・部分矯正・歯を削る方法

不正咬合を治療するときは、歯と顎顔面のバランスを考える必要があります。 例えば、不正咬合の種類によっては、顔つきに特徴がでます。 下顎前突(反対咬合)は下顎前突の顔に、上顎前突(出っ歯)は上顎前突の顔に。 ここまでは何となく想像できると思いま…

埋伏歯 ②

過去記事に埋伏歯①があります、今回は②です。 あなたは、この症例をどう考えますか、一緒に診ていきましょう。 【初診時口腔内写真】 17歳 女子 正面に歯が縦にふたつあります。 過剰歯でしょうか。それと、前歯の形が左右で違います。 向かって右の前歯(本…

大人だから矯正治療

きっかけがなかった。 かといって、もう年だから矯正治療には、なかなか踏み出せない。 いいえ、大人だからこそ矯正治療をして、美しさと健康を手に入れるのです。 今はそんな時代です。 何もしないのも自分、行動するのも自分。決めるのも自分です。 先ず矯…

その話は信用できるのか

反対咬合症例であっても、乳歯列では治療の必要はありません。小学生になった時点で改善がなければ、矯正歯科医に相談して下さい。 また、何かの事情で反対咬合の治療時期をのがした場合であっても、気が付いた時点で矯正歯科医院に行ってください。成長期を…

一本の歯が引き起こす問題

一本だけ反対咬合でも、 この一本の歯がいろいろな問題を引き起こしています。 このことについて、説明します。 まず、通法にしたがって、検査・診断をします。 本症例の治療方針は以下の通りです。 第一段階: 上顎前歯の配列による機能的障害の除去と反対…

顔を治す

さっそくですが、本症例の診断結果を以下に示します。 ①骨格性反対咬合である ②下顎が前に誘導されている ③かつ、左に顎変位していく ④上顎前歯2本の先天欠如 ここに挙げた点について、ていねいに対応していきます。 ただ、ひとつだけ治療を難しくする要素が…

装置は何でもいい、ただし筋は通せ

矯正治療は原因にアプローチすることで、達成されます。 そのためには資料を正確にとること、正しい診断をすることが必要です。 間違った診断は、間違った治療に発展します。 【初診時】 小学1年生 男子 反対咬合は次のタイプに分類されます。 ①歯性の反対咬…

将来を予測して計画的に治す

はじめは本症例の模型、時期は初診と第一段階後です。 上顎前突症例には、前歯が出ているタイプと前歯がとび出ない代わりに咬み合わせが深くなるタイプの二種類があります。本症例は後者です。両者とも上下顎の歯列が前後的にズレているという点では共通して…

成長期の観察には意味がある

私は大抵の場合、「歯並び・咬み合わせ」と表現しています。 歯並びを治しましょうではなく、歯並び・咬み合わせを治しましょうという具合です。 それは「歯並び」と「咬み合わせ」が独立して存在しているのではなく、共存していると考えるから、この二つを…

上の前歯が一本ない場合

ほとんどの患者さんは、歯科医師であればだれでも矯正治療が「出来る」と思っていま す。違います、「出来ません」。説明します。 歯科医師が矯正治療の医療行為を行う事自体は違法ではありません。この点において 「出来る」でしょう。重要なのは「ちゃんと…

歯を抜かない矯正治療

矯正治療には二通りあります。 歯を抜く必要のない症例(非抜歯症例)と抜く必要のある症例(抜歯症例)です。前者を「抜かない矯正」として、ことさら強調しセールスポイントにしている場合がありますが、それは「抜かなくてもできる症例」であって、特別な…

八重歯が可愛かったのは昔のこと

八重歯が可愛いかったのは遠い昔のことで、今は積極的に矯正治療をする時代になりました。見た目が悪いだけでなく、もう一つ重要な問題があります。それは犬歯の働きです。八重歯状態にある犬歯は、ただそこにあるだけで機能していない、働いていません。犬…

仕上がりを予測する・先天欠如の場合

歯の先天欠如はそれ程珍しいことではありません。(統計データは他に譲ります) 先天欠如、すなわち歯がないこと自体は問題となりません。問題は歯がないことで隣り 合う歯が傾斜したり、傾斜した結果、咬み合う歯と不良な接触が生じることがあること です。…

責任を果たす。

ブログでは口腔内写真だけの掲載ですが、矯正治療の診断は口の中だけ診て判断するも のではありませんので、誤解のないようにしてください。検査資料は他にもあります が、あえて載せていません。 さて、成人の反対咬合症例です。次に示す写真を見るときは以…

矯正治療をする・しない

QOL(クオリティ・オブ・ライフ)という言葉を再確認してみましょう。 QOLとは、一般に、ひとりひとりの人生の内容の質や社会的にみた生活の質のことを指 し、つまり、ある人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送り、人生に幸福を 見出しているか、…

木を見て森を見ず

矯正治療をするうえで、歯の凸凹の量が多いか少ないかは重要な問題ではありますが、 凸凹の量だけが、抜歯・非抜歯(ばっし・ひばっし)を決める要因にはなりません。 言い換えれば、凸凹がなくても抜歯するケースがあります。 今回はそんな、おはなしをしま…

歯を抜かずに治療できる例

このブログでは、わたしが治療した症例を紹介しながら矯正歯科の話しをしています。 いままで紹介してきたマルチブラケット治療はたまたま、抜歯症例が続いていました。 抜歯・非抜歯(ばっし・ひばっし)の判定は、術者の好みや、流行りの治療方法で左右 さ…

アンバランスからバランスへ

抜歯・非抜歯の判断は、先生の好みや流行りの治療で左右される性質のものではありま せん。また抜歯が悪で非抜歯が善ということでもありません。学術的に正しく判定され た結果が優先されます。この結果を無視し、抜歯症例を無理やり非抜歯で治療すること が…

凸凹のタイプも色々

初診時の状態。一見、問題なさそうですが、どうでしょう。写真向かって右上に注目し てください(本人の左上)。上顎の前歯のとなりに、いきなり犬歯があるのがわかりま すか。 【初診時口腔内写真】 この写真の方がわかりやすいですね。 検査資料をもとに診…

治療後のイメージを考える

様々な不正咬合があります。骨格そのものが小さかったり、大きかったり。 歯の凸凹の量が少なかったり、多かったり。 横顔の外観上、口元が出てたり、引っこんでいたり。 咬み合わせが浅かったり、深かったり。 舌癖(ぜつへき)があったり、なかったり。 顔…